「そのわりには長いよね。今日で4日目だっけ?」


 治生がカレンダーを見る。


「それは治生さんがぎりぎりまで放っておくからですよ。前も先生に注意されてませんでした? 穴が開くまでにきてくださいって。慢性化してるんですから気を付けてくださいね」

「あーあ。芳郎(よしろう)おじはこれだから。僕ももう36、立派なおっさんだよ。過保護にもほどがある」


 吐き捨てるように言う治生の横で、小鳥はくすくすと笑っている。


「いや、冗談だけどさ。でもこうしてると、不思議と本当に重い病気になった気がするんだよね。親父もこんな風だったのかな?」

「どうですかね。お見舞いは多かったでしょうけど、私がここに来た頃には亡くなられてましたから」

「ああ、そっか」


 治生の言葉に、小鳥はゆっくりと頷く。花瓶を元の場所に戻すと、台拭きをワゴンの端にひっかけた。


「お水は姪御さんにでも替えてもらってくださいね」

「ああ、うん。でも、あいつは気紛れだから。続けて来たかと思ったら、またぱったり来なくなる。前に入院したときもそうだったから、次に気が向くのは僕が退院した後かな。水は自分でかえるよ。こんな時つい、これが本当の娘だったら、とか思っちゃうんだよな」


 治生はそう言って、口を閉ざした。36になった彼の額には、薄い皺が浮いていた。


「あれ? 娘さんって本当だったんですか?」

「それも冗談だと思った?」


 治生が笑って、小鳥が苦笑する。


「若い頃に僕は一度結婚してるんだ。そのとき僕はまだ学生で。かけおちってやつさ。妻とも娘とももう16年会ってないけどね」


 治生がふいにか細い息を吐いて、本当の重病人みたいに弱々しく笑った。


「じゃあ、会いに行ったらいいじゃないですか」

「え?」