時間にすると、それはほんの数秒だったのかもしれない。

しかし、その数秒の間に菜緒は圭一の見ている夢を感じる事ができた。

それは、圭一が結衣と紡いできた時間に呼応する様で、頭がジーンと痺れるような感覚だった。

ほんの些細な会話でさえも喜びに満ちていて、暖かくてやわらかいその夢は、きっとどれをとっても掛け替えのないものだ。

そして、いつしか絶望的な瞬間に滑り込んだ時、圭一は忘れていた記憶をよびおこす。認めたくないものをその目に映す。

圭一の心が闇に沈んだ瞬間を思って、菜緒は涙を流した。

どうせ夢なら幸せな場面ばかりならよかったのにと菜緒は思う。

「結衣…」

うわごとの様にそう繰り返す圭一の目に、やがて光りが戻ろうとしていた。

「波多野君…」

そう呼び掛けると、圭一は菜緒に向いた。

そして、今見た夢の話しをする。

忘れていた、記憶の話しを…。

「サヨナラって…言ってた…」