最初、眺めていただけの「キノコ大図鑑」だったが、菜緒はその様々な形や特徴にあっという間に惹かれた。

ひとつひとつを注意深く読み取り、気持ちを雑木林や山林へ馳せた。

菜緒の興味はグングンと深くなり、それだけで、自分自身ここ最近の悩みが全部消え去ったように感じていた。

「ベニテング茸」

それの形は、絵本や童話に出てくるようなきれいな形をしていて、菜緒の目をひいた。

「毒性のあるキノコ。食べると幻覚をみる事がある」

”幻覚…”

見事にトリップしていた頭を揺さぶられた。オモイッキリ現実に引き戻された。

”幻覚…。まぼろし…”

昨日から頭の中で、ひたすら繰り返された洋太の話しがまた呼び起こされた。

実際には幻とも少し違って、頭の中で失った手を”作り出して”いるらしく、不思議な事に痛みだとかの感覚もあるらしい。

”見えないものが見える”

菜緒は目の前の「キノコ大図鑑」からスッカリ興味を失い、圭一の事を思っていた。