考え事をしたいとき、菜緒は図書館にくる。

たくさんの本は何か素晴らしいアイデアを与えてくれるようでもあるし、些細な悩みであれば吸い取ってくれるようでもある。

朝からジメジメした今日は、本が持ってるあの独特な匂いも、より強烈に感じられた。

本棚を縫うように歩いて、何を探すでもなくギッチリと並べられた背表紙をただぼんやり眺めていた。

やがて、菜緒の目にいくつかのタイトルが飛び込んできた。

「こころの臨床」「脳のしくみ」

菜緒は、昨日聞いた洋太の話しを思い出して、立ち止まった。

”圭一は、あの事故以来見えないものが見えてるんだ”

そんな事があるのかどうか、菜緒は知らない。でも実際あるのだろう。それで圭一は苦しんでいるのだろう。

菜緒は本に手を伸ばした。が、結局こわくなって取る事ができなかった。

振り返り無造作に「キノコ大図鑑」を手に取ると、それを持って菜緒は窓際の席に座った。