「まあ、ただの口実だろうね、圭一も従うしかなくて…」

美術部にしてもこれは念願だったのだそうだ。

「そんなんで、圭一は退屈で苦痛でしかない数時間を過ごしたんだ」

モデルをしているだけなのに、趣味やらなにやら聞かれたらしい。

「夕方近くにやっと開放されるかと思ったら、今度はお披露目会があったんだって、絵を見て感想を言えって…。」

楽しそうな、話なのに洋太は苦しそうに見える。

「ズラリと並んだ絵は、みんな真正面から書いてるのに、一枚だけ後ろから描いてる絵があったんだ」

その絵を描いたのが結衣だと、洋太は言った。

「”恥ずかしいから。”って言うのが理由らしいけど、圭一はその絵に一瞬で惹かれたんだ」

菜緒は耐え切れない。また泣きそうになる。

”鏡を見ているみたいだった”

それが圭一の感想だったという。これが二人の出会いだったという。

”かなわないよ…”

菜緒はついに鳴咽をもらして、泣き始めた。