「どしたの?」

一緒にいた洋太が聞いて来た。

「別に」

答えながら圭一は思った。事の発端はコイツだ。

洋太があんな事を言わなければ、最初の出会いでこんな思いもしなかったろう。そう考えたら腹が立った。

「お前がワルイな。全面的に」

「ハ?何が?」

洋太は聞き返すと、瞳をぐるりとまわした。カンを働かすときの癖だ。

そしてひらめいた。

「ワカッタ!矢野紗梨奈だろ!」

惜しい。ハズレ。

しかし圭一は、最初から本当の事を言うつもりなどない。

だから答えた。

「当たり。よく解ったな」

「うそつけ。ホントは神木菜緒だろ?」

今度こそ正解。圭一は舌打ちをした。

「何かあったのか?」

「何も無いけど、この前会った」

「へえー。何処で?」

「駅で」

洋太のペースに操られつつ、圭一は話し続ける。