今の結衣の絵はまるで落書きだった。

抽象的な絵の場合、素人が見ると落書きに見えるような絵もある。

しかし、これはやはり違う。

バラバラの線はまとまりがなく、構成も一目見ただけでは、何がなんだか解らない位バランスが悪い。

誰が見ても、やはりただの下手な絵だ。

しかし、圭一は描き続ける結衣を応援していたいと思っていた。

どこかでこの絵に、希望を抱いているのだ。

この絵が完成する事は、全ての第一歩だと圭一は信じていた。

だってそうじゃないか?

このまま、結衣が負けるはずがない。事故に何もかも奪われたままなんてあるはずがない。

この絵が完成しさえすれば、何かきっかけが生まれて、少しずつ状況がよくなる。

圭一は、そう信じている。

”がんばれ”

心の中で呼びかけた声は、何故か自分に向かっているような気もした