”神木菜緒”

圭一は、たった今聞いた名前を頭の中で反芻した。

”すごく、いい娘だよ”

洋太がそう教えてくれた娘の名前だ。同一人物と決まった訳じゃないが、多分そうだろう。

圭一は、今あった出来事全てを消し去りたかった。

何でそうしたいのか、自分でもよく判らないが、あまり良い事じゃない気がしたのだ。

冷静になって考えれば、そんなに気にする必要はないのかもしれない。

そもそも、気にする位なら自己紹介などしなければよかったのだ。

”何であんなこと…”

思い起こして、圭一は舌打ちをした。

今思えばそうかも知れないが、あの時の自分の気持ちを圭一はしっかり確信している。

圭一は菜緒の事を知りたいと思ったのだ。

自分の気持ちに、正直過ぎるくらい振り回されている彼女を見て、変な言い方をすれば”興味”を持ったのだ。

そんな風に思った事を圭一は捨て去ってしまいたい。