ふと菜緒は、階段の方に目を向けた。

”あれ?”

さっきの女性が、階段のところで立ち尽くしている。

どうやら、昇ってくる人が多すぎて、うまく降りられないようだ。

”大丈夫かな?”

女性は、手摺りに捕まったままで、困っている。

菜緒は、立ち上がって女性のもとへ向かった。

圭一の影響があるのだろうが、それよりもスンナリと心が動いている事が自分でも不思議に感じる。

やがて、女性の元にたどり着き、背後から肩に手をかけようとした。その時…、

ガシッ。

背後から手をかけられたのは、菜緒のほうだった。

振り向くとそこには、圭一が立っていた。

”え?何?”

菜緒は、声もだせず呆然と圭一の顔を見つめる。

いつも遠くから見てる見慣れた顔を。

「ダメだよ」

圭一は小声で言ってきた。菜緒はまだ、今の状況が把握しきれない。

ただ、圭一を見つめるしか出来なかった。