「結衣…」

また幻なのだろう。でもその姿はハッキリと圭一の目に映った。

圭一が抱えて来た幻とはまた違う。優しい目でこっちを見ていた。

「結衣…。また俺は…。」

とんでもない失敗をしてしまった。自分の事を助けてくれた人を助ける事が出来なかった。

圭一の目からは、涙が溢れ出した。

”大丈夫だよ”

その声は、ハッキリと聞こえた。

いつか聞いた事がある言葉なのだろうか?

「大丈夫だよ」

違う。間違いなく、今、目の前の結衣が発した言葉だ!

「結衣!」

圭一がそう呼びかけると、結衣は人差し指を立ててそれを線路に向け、ニコリと笑った。

そしてそのままスッと消えた。

「おい!いたぞ!生きてるぞ!」

誰かが叫んだその方向を見ると、菜緒が線路から引き上げられていた。

圭一の体に力がバッと甦る。

圭一は、跳ね上がるように立ち上がると菜緒のいるところに駆け寄っていった。