”きた…”

ホームに電車が入って来たとき、菜緒は圭一の存在をそのまま感じていた。

自分が何故そうしたかはよくわからないが、菜緒は学校がある駅で圭一を待っていた。

菜緒にしてみれば、初めて圭一と言葉を交わした場所でもあったし、ここの方が見つけやすいとも思っていた。

菜緒は今まで圭一に会おうと思って苦労をしたことがない。

だから今も、会おうと思ってこの場所に来ただけの話だ。

やがて電車が止まって、中から溢れるように人が降りて来た。

そしてその中に圭一はいた。

圭一の方も菜緒を見つけたみたいで、ゆっくりとこっちに近付いて来た。

「どうしたの?何してるの?」

なんとも言えない優しい笑顔で圭一は話かけて来た。

「待ってたんだ。波多野君を」

そう答えると「ハハハ」と笑って、そうなんだ。と取り合った。

「本当だよ。私は波多野君に会いにきたんだ」

菜緒が言うと、圭一は少し悲しそうな顔になった。