おばさんはその後、結衣の話しをあれこれしてきた。

それは、圭一も知っている話だったり、あるいは初めて聞くような話だったりもした。

そうする事で過ごした時間は、とてもゆっくりと流れて、心地よいものだった。

結衣の事を。結衣との事を抱え続けて、がんじがらめに縛り付けていた自分の心がほどけていくようだった。

話す事で、宙空に泳ぎ出した結衣は、どこに還っていくのか?

そんな事を思ったりしたけど、今はその全てを受け入れられる気がしていた。

そうやって泳ぎ続ける結衣の存在の拡がりのようなものを、ようやく圭一は感じる事が出来たのだ。

つまりは、どんな時でも圭一は結衣を感じられるし、結衣は失われる事なく拡がり続ける。

人の存在なんて、そんなものなのかもしれない。

忘れることも忘れないことも出来ないのだからこのまま抱え続けるのがいいのだろう。

でも、それはいままでとは明らかに違う感覚で、視界の端で見え隠れする結衣に対する例えば敬意のような物なのだったのかもしれない。