町に着いて、懐かしいと感じたのは、その匂いだった。

東京よりも空気はキレイなはずなのに、駅前から商店街を抜けて、さらに家がポツリポツリとしかない通にでるまでの間、ずっとかび臭いような埃臭いような匂いが鼻先をくすぐっていた。

そんな匂いがやたらと懐かしく感じた。

どんなに景色が変わってもここは自分が生まれ育った町だし、自分の素養が埋められた場所だ。

”逃げられない”

胸をついて浮かんだ言葉はこんなもんだった。

何で塗っても、何で覆っても、そんな事で逃げられるものではなかったのだ。最初から。

家に寄ろうと最初考えていたが、圭一はそれをやめた。

何度となく往来した、道を歩きだした。

”結衣の家へ”

自分が会いに行く結衣は、今思えば不確かな存在だが、そこに行けば確かに結衣に会えると感じていた。

そろわないピースは、どんな形であれそこにあるはずだと感じていた。