月の夢

「あ」

思わず声にでてしまった。

相手も気づいたようで目が合うと軽く頭をさげた。

篠原くんだった。

二、三歩こちらに近よって周囲に気遣うように静かな声で、

「昨日の本どうだった?」

「うん。とても好かった。ちょっと泣いちゃった」

「なら、よかった。先輩なら絶対気にいってくれると思ってた」

嬉しそうに篠原くんは笑う。

「いい作家だけどマイナーで知られてないんだよね」

「このひとの本って、ほかにないの?」

「あるよ。先週も新刊がでたところだし。さっき確認したら貸出中だったけど」

「そっか。残念。あったら借りようと思ったのにな」