そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にか猫はぼくに触られても逃げ出さなくなっていた。
ひなたぼっこ中の猫の背中を撫でてみると、見た目の通り毛並みは悪かった。
ところどころ泥がこびりついていて、洗ってあげたほうがいいのだろうかと考えたけど、確か猫は水が苦手じゃなかっただろうかと思い、手で毛を梳くだけにとどめておいた。





あんまり授業を抜け出すわけにもいかないから、猫と会える時間は結構限られていた。
遊んだあとに必ず食べ物をあげるからか、猫はぼくの姿を見つけるだけで近寄って来るようになった。
猫にだいぶ気に入られたみたいで、とても嬉しかった。





そうして猫と遊ぶ習慣ができた頃、もう季節は秋を迎えようとしていた。
我ながら、野良猫という接点を持ちつつなっちゃんとの会話の機会がここまでないのは、なんだかすごくおかしな感じがした。
なっちゃんだってさすがにぼくが猫と遊んでいるのは気づいていただろうし、ぼくも猫と一緒にいる時、たまになっちゃんがこちらを眺めていたのを知っていた。
だけど互いに知らない人同士で、ぼくが一方的になっちゃんのことを少し知っているだけだった。
話し掛けようなんて思ってもみない。





それでもぼくたちが顔を合わせる機会はあった。
きっかけはやっぱり猫だったから、あとでちょっと笑ってしまった。
いつものように放課後、ぼくにとっては下校途中、正門まで行くのに必ず差し掛かることになる花壇で、なっちゃんがまた猫と一緒にいるのを見つけた。
ああまた仲よさそうにしてるなと、どこかで考えながら歩いていた。
その頃にはもうなっちゃんを見掛けるだけで意識がそちらに向くということもなくなり、今日はたまたま猫の鳴き声に目を向けただけだった。
なっちゃんに抱きしめられている猫は眠たそうにしていたが、ぼくと目が合うと、はっとしたような表情になった。
そして突然、なっちゃんの腕の中から抜け出して、なんでだかぼくのほうへ駆け寄って来た。
猫を追い掛けて来たなっちゃんはぼくの姿を確認するなり、目をまんまるくさせていたけれど、たぶんぼくも似たような顔になっていたんだろうと思う。