最後まで見てはいなかったから、猫がちゃんとサキイカを貰えたのかは分からない。
ただ放課後、たまになっちゃんと遊んでいる猫を見ていると、仲良しなんだなあということだけは窺い知れた。





あの三毛猫はよく花壇に遊びに来るようだった。
なっちゃんがいなくても、放課後でなくても気がつくと花壇でぐっすり眠り込んでいた。
警戒心が強いのか、ぼくが近づくとすぐに飛び起き逃げ出してしまうから、触ってみたことは一度もない。
猫が好きか嫌いかなんて考えたことさえなくて、触ってみようと思ったわけでもないから逃げられても捕まえようとしはしなかったけれど、避けられたらそれは傷ついたりする。
その上なんとなく悔しい。
なっちゃんがいない時に必ず猫と仲良くなってやろうと、変な野望を持つようになった。



授業を抜け出して、花壇へと足を運ぶ。
日が当たってぽかぽかと暖かい花壇は、きっと眠るのに最適なんだろう。
猫はやっぱりぐっすりと眠り込んでいて、それだけを見るならとても無防備に感じた。
しかしあの三毛猫は人間を引っ掻くのにまったく躊躇をしない。
ぼくはもちろん、放課後のぼくが見ている短い時間の中で、なっちゃんもあの猫に爪を立てられたことがある。
慣れているのかなっちゃんは気にも留めていないようだったけれど、猫に触ったこともないぼくは最初、驚いてひっくり返ってしまった。
それでも諦めずに近寄ろうとしたのは、もはや執念と言ってもよかったかもしれない。



ある日になっちゃんが持っていたのと同じサキイカの袋を持って来て、猫にちらりと見せてみた。
味をよく知っているのか、のんびりとだれていた猫は大げさなくらい勢いよく顔を振り上げた。
なんだか面白い。
意地悪するなっちゃんの心情がなんとなく分かるような気がした。



なっちゃんがやっていたように、袋から取り出したサキイカを右へ左へと動かしてみる。
連動するように猫がサキイカを追い掛ける。
これは楽しい。
引っ掻かれてばかりで猫を嫌いになりかけていたけれど、これだけで好きになれそうな気分だった。
ひとしきり遊んだあと、持っていたサキイカを猫にあげた。
両手で地面に押しつけながら食べるのを見るに、どうやら生きものだと勘違いしているようだった。