なっちゃんとぼくには、特に接点らしき接点というものがない。
幼馴染みでもないし、席が近いということもない。
そもそもクラスからして違う。
無理やり接点を探すなら、学年が同じということくらいだ。










初めてなっちゃんを見かけたのは、入学式の時だった。
緊張と期待が入り混じり、まだ空気の冷たさが残る体育館に名前順で並んでいる生徒たちの中で、ひときわ大きくてすごく目立っていた。
背筋をぴんと伸ばして、下に垂らされた手はだらんとしていたけれど、指先まで綺麗に整っていたから、たくさんの人の目を惹いた。


なっちゃんと違って幼稚園の時から周りの子より背の低かったぼくは、なっちゃんをとてもうらやましく思った。
あんなに高いところから辺りを見渡せたら、どんなに広い景色が広がるんだろう。
バスケットもきっと楽にゴールに届くんだろうな。黒板の上のほうだって背伸びしないで届くんだろうな。
ぼんやりなっちゃんを眺めながら、ぼくはそんなことを考えていた。





速い足取りで姿勢よく真っ直ぐ廊下を歩くなっちゃんはほんとうにかっこよくて、姿を見るたびに目で追ってしまっていた。
なっちゃんは友達と話すより本を読んだり花の世話をするほうが楽しいみたいで、人気のない美化委員会に在籍しているらしかった。
帰り際に黙々と花壇を整えているなっちゃんを見たことがある。
真剣な顔をして、手や制服を泥だらけにしながら一生懸命土いじりをしているなっちゃんを、ぼくはやっぱりどこかぼんやりと見つめていた。
夕日に照らされてオレンジ色に光ってるなっちゃんの顔が、なんとなしに好きだった。





友達になろう、なんて気はまったく起こらなかった。
どうしてなのか、なっちゃんとぼくは別の世界の人間で、偶然学年だけ一緒になった赤の他人なのだろうと、空想染みたことを考えていた。
だから物珍しさでなっちゃんに目が行ってしまうのだと、なかば暗示かなにかのように思っていた。
こんなことをぼくが思っているなんて知ったら、なっちゃんはどう感じるんだろう。
おかしな顔をして、馬鹿にされるだろうか。
無表情以外のなっちゃんを見たことがないためか、そんな光景は頭に思い描こうとしてもなかなか難しかった。