「あのままにしといたら、あんたは見つかり、
あの絵は大々的に、取り上げられるでしょうね。

でも、そうするとあの絵は、
京さんの最後の作品として
【可哀相な絵】というイメージがつく。

それじゃいけない。
あんな暖かい絵が、そのままで見てもらえなくなる。

それが嫌だっただけ。

あんたがどうして、絵を描く人を嫌うのか知らないし、どうするつもりもない。

けど、京さん…あんたのお父さんは
幸せだったと思うよ。

いい奥さんと、かっこいい息子に囲まれて…

じゃなかったら、あんな暖かい絵が描けるわけないから」

あたしは、黒沢の目をじっと見つめながら
話した。

すると、黒沢はいきなり座り
口を開いた。

「俺の父さんさ…
いいやつで、こんな俺にもいつも構ってくれたんだ。

それでさ、父さんに言われて一度だけ
絵を応募してみたんだ。

雨が降ってる日で…

父さんが出しに行った帰りだった。

車にひかれたのは。

雨で視界が悪くて、ブレーキが間に合わなかったって…

父さんは即死だったって」

そこで黒沢は、一度口を閉じた。

はじめて聞く黒沢の、過去。