お嬢様が涙ながらに胸の内を溢した事で、私は掛ける言葉を紡ぎ、少しでも硬くなった心の器を解して差し上げる事が出来たようで。


あの日以来、お嬢様のご様子は芳しい。


私に会う毎に笑顔が増えて来たし、言葉数も多くなり、何より頬の血色がよく綺麗な薄紅色を放ちだした。



「ジョセフ」


私の名を呼ぶ声は少し躊躇いがちだが明るくなり、優しく笑顔を向ければ俯き加減に私を見上げる。



「ねえ、聞いて」


今まで興味無さ気に弾いていたピアノを感情を乗せて弾いている。


他人に聞かせる事を拒んでいたお嬢様が、今では私にだけその音色を聴かせてくれる。



「今まで嫌々弾いていたけど、この前先生にとても素敵な音楽になりました、と褒められたのよ」


そう言ってまだ少し慣れない満面の笑みを湛える。


「ええ、・・・何かこの曲に添えて訴えたい事でもあるのですか」


「えっ」


「そんな気がしました」


お嬢様は顔を背けてピアノに向かい合った。


「そんな所です」


少し恥ずかしげに物申す様は、すっかり本来の令嬢風情が整っている。