「蓮を救ってやって下さい!」

差し出された亡骸を凝視したまま、慈尊は無意識に後ずさった。

「い、今の私に、人を救う力など……」
「そんなはずはありません、あなた様は救世の神だ。全ての人を救う神が、たった一人を救えぬはずは……」
「無理だと言ったら、無理なのだ!」

慈尊の悲鳴にも似た叫びに呼応して、風が激しく咆哮し、少女の髪を巻き上げた。
だが、ただ、それだけのことだった。

長い時を生きてきたが、これほどの苦痛を味わったのは初めてだった。

打ちのめされたように肩を震わせる高耶を見て、慈尊は唇をかみ締めた。