ーside.妃芽
「錨をあげろー!!帆を張れーー!!」
文化祭当日、最後の最後の準備時間。
全員幕末衣装に着替え終わったその瞬間に、沙羅ちゃんが声をあげた。
「野郎共っ、出航だー!」
なんて、どこかの海賊ノリで叫ぶ。
続いてクラス中が、
「オー!!!!」
と鳴った。
…幕末なのに、なんで海賊?
なんてあたしの心の突っ込みは無視だったけれど。
それでも気合いの入った沙羅ちゃんの声を聞くと、こっちもやる気になる。
「妃芽、襲われないようにねっ」
「はあ?それは玲羅の心配でしょ?」
冗談をいう玲羅に笑って返してから、開始時間まであと10分を示す時計を見上げた。
淡いピンク色の生地に蝶の絵がかかれた着物を着てるあたしは、町娘みたいな役。
しかも子供っぽい。
猫っ毛の髪をなんとかあげて、高い位置で二つ、ふんわりしたおだんごをつくっている。


