「「男だと言った覚えは無いが?」」

スネアの驚きの声に、バードとワオンは見事にハモって答えた。


後ろで一つに纏めた長い黒髪。
バードの目によく似た切れ長の目、そして朱の瞳がそのキツい性格を物語っている。
まだ『娘』と呼べる年頃で、顔立ちは姫に勝るとも劣らない程美しいが、右眉から頬に掛けて刀傷があった。


「可笑しいか?」

驚嘆から感嘆の表情に変わったスネアの視線が痕に向いたのを感じ、ワオンは冷徹に言い捨てた。

「女が武将をやっていたら、可笑しいのか?」

威嚇するように問い詰めるワオンに気圧され、スネアはたじろいでいた。


「やめろ、ワオン。
スネアは何故お前が武の道を選んだのか、事情を知らない。
逆にお前は、スネアが命を賭して奏者になった経緯を知らないだろう。
………奏者として選ばれし者は、皆誰しも暗い過去を背負っている。
それを乗り越えたからこそ鳴流神に選ばれた。
………お前もそうだろう?」

「……………」


バードに諭されて黙るワオン。
憎まれていながら、そういう部分は過去の師弟関係が物を言うようだ。