「………で?
こんな辺境の土地に、何で滅多に集落から出ないケットシーが居るんだ?」

「えっと………
家出……したのニャ」

ケットシー族は滑舌が悪いため、言葉の語尾が訛る。


新しい服に着替え、ようやく泣き止んだ娘。
バードが選んだ服のサイズが少し小さかったようで、ケットシー族にしては珍しい豊満なボディーラインを際立たせていた。

「俺の名はバード。
流れ者だ。
お嬢さんの名前は?」

「………ソナ」

バードはソナと名乗る娘の手を引き、立たせてみた。
膝や肘に擦り傷があるものの、特に酷い怪我は無いようだ。


「私ね、帰る所が無いのニャ。
バードさえ良ければ、私も旅に着いて行ってもいい?」

ソナは女性が男に頼み事をする時の必殺技『上目遣い』でバードに懇願したが、

「それは駄目だ。
俺は道楽や趣味で旅をしている訳じゃない。
女の子には危険過ぎる」

普通の男なら一撃で墜ちるウルウル視線も、バードには通用しなかったようだ。


「ニャ……
バードに助けてもらったから、今度はソナがバードを助けようと思ったんだけどニャ………」

「ありがとな。
気持ちだけ受け取っておくぜ」

ガッカリして暗い顔をするソナの頭を撫でてやり、立ち去ろうとするバード。
その背に向けてソナが呟く。


「ソナが一緒に居れば、『奏者』を探す旅も楽になるのニャ」