「えっと、ごめん。意味が分からない」

これは茜の本心だろう。鈍いわけではないから、想定にないので、理解が追いつかないだけだろう。

だから詠美は、できるだけ分かりやすく説明する。

本来なら当事者の私がすべきことだが、詠美ほど頭も良くないので、黙っていた。

「梨花さんは、容姿が好みの男性に、自分の理想を投影しているんじゃないかって、思ってるの」

「理想の投影?」

「きっとこういう人だ。無意識にそう相手を決めつけて恋したんじゃないかって」

そう。

私の懸念もは正にそれ。

私は翔に恋したのではなく、私の好きな理想の男性が翔だと思っているかもしれない。

それはひどく惨めで無礼だ。

現実の人間ではなく、都合の良い妄想の男しか愛せない。

惨めだ。

翔自身ではなく、妄想のフィルター越しに見る翔へのときめき。

無礼だ。

だから私は自分の気持ちに自信が持てない。

私が苦しいのは良い。

私が悲しいのは良い。

私が傷つくのは良い。

ただただ、翔を苦しめるかもしれない。

それが怖い。

翔を悲しませるかもしれない。

それが怖い。

翔を傷つけるかもしれない。

それが怖い。

私は、そんな恐怖を抱えていた。

「だから、梨花さんははっきりと、相手の男性を好きだと言えないの」

神妙な面持ちの詠美に私は感謝した。

気づかなかったか、目を逸らしたか。

どちらにしても、詠美がはっきりと言ってくれたことで、私は私自身の問題を知ることが出来たのだ。

理解したら、後は自分の問題。

私がいかにして、自分の心と折り合いをつけるかだけだ。

……そのはずだった。

「なんだそんなこと?」

茜は呆れたようにため息をつく。

私は思わず目を見開くのだった。