「べ、別に好きとかじゃないんだけど――」

私は翔のことを隠しきれなくなり、とうとう話してしまった。

いやでも、よく頑張った方だと思う。

茜のプレッシャーは半端なかった。

絶対刑事になるべきだ。どんな凶悪犯もいちころに違いない。

うぅ……まだ冷や汗が……。

「――ってかんじ」

恥ずかしい。男性との思い出を語るなんて初めてだから。

詠美は楽しそうにニコニコしていて、そんな目で私を見るなと言ってやりたい。

だが、茜は反対にひどく真面目な顔をしていて、

「運命ね……」

「はい?」

なんか真面目な顔でなに言っとるか?

「運命ね……」

納得するように頷く茜。どこか満足気だ。

「運命……」

待て。感動する場面じゃないでしょうが、詠美。

「いや運命って大げさな。ただ偶然会っただけだし」

「それが運命よ。いい? 偶然は運命の別名よ?」

「いやいやいやいや! そんな簡単に運命とかあるわけないから」

「ある。運命は人生の中に転がってるのよ。それが劇的であるかないか、しかないの」

「駅のホームで駄弁ったのは劇的かなぁ?」

「勿論! だって他にホームで話した人なんているの?」

「……いない」

「ほら、劇的! これは運命ね!」

「…………」

マズい! なんかそんな気がしてきた!

もしかして洗脳されてる?

「どんな人なんですか?」

詠美が私の思考に割り込んできた。

茜に誘導されていた人間としてはナイスアシストだ。

「そこは私も気になる」

茜、再び。

その瞬間に、私は覚悟を決め、精神武装をする。

「梨花が一目惚れなんて、よっぽどのイケメンなの?」


思い出す。翔の容姿、特に顔を中心に。

「…………」

私は突然の熱でくらくらしてきた。