〈なにそれ? 初対面で好きになるわけないでしょ?〉

私はそう言ったのだ。これではまるで――。

「少なくても初対面で好意を持っている相手がいると取れます」

いやぁあああああ!

解説しないで、詠美ぃ!

恥ず! 死ぬ! 恥ずかしくて死ぬ!

「梨花さんに自覚があるかは分かりませんが、間違いなく、意識している人がいるときの発言ですね」

きゃぁああああああ!

言わないでぇえええ!

なに? あれ? 詠美、私を殺す気?

そうね! そうに違いない!

反撃よ、梨花! このままじゃ、一方的にボコられてKO負けになってしまう!

私は反撃に転じた。

「ちょっと……話が飛躍しすぎじゃないかな? いくらなんでも――」

「じゃあ、なんでいつもと違うんですか?」

「ぐっ!」

クロスカウンター炸裂!

「興味がないと言わなくなったのなら、それは興味ができたってことでは?」

詠美の追撃。

ワンツーのコンビネーション。

ロープ、ロープ!

しまった! ボクシングにはロープはない!

「好きになるわけないってことは、対象者が現れたんですね」

アッパーカット!

心のリングにセコンドがタオルを投げ込んだ。

鳴り響くゴング。

1RKO負け……。

「うぅぅぅ……」

ダメージで呻く私。

そんな弱りきった私を見て、ついに山が動いた。

「……で?」

茜だ。

「相手はどこのだれ? さあ、ゲロしなさい」

「も、黙秘権を行使する!」

「田舎のお袋さんが泣いてるぞ。カツ丼食うか?」

「弁護士を呼んでぇ〜!」

喫茶店が騒がしくなった。