「もういいじゃない。梨花さん、朝早かっただろうし」

そうフォローしたくれたのは、一年下の後輩で友達の井上詠美(いのうえ えいみ)。

映画の途中、むしろ序盤で寝てしまった私を殴ったりしない優しい娘だ。

茜の紹介で半年ほど前に知り合ったのだが、今では茜抜きでも親友だ。

茜がいらないって意味じゃないからね。

「甘い!」

詠美のフォローに茜は激しく反発する。

ビシッと指を突き刺し、平均以下の胸を反らせた。
「友達同士ならそれで済むけどね! デートで来たときを考えなさい!」

想像してみる。

朝早くからせっかく来た映画で、開始早々に舟を漕ぐ奴。

「…………」

「ほらね!」

我が意を得たとばかりに平均以下の胸を張る茜。

「わざわざ見に来た映画、始まって五分で居眠り。デートだったら致命傷確実!」

茜は自信たっぷりに言い切る。

私は何も言い返せなかった。

実際に自分がやられたら、本気でムカつくだろう。
……でも、そんなことするとは思えないけど。

「――――」

「…………?」

あれ?

茜の口撃が止まった。

日頃ならもう少しぐらい追撃してくるかなと思っていたのに。

普段の茜は一度持論を展開すると、なかなか止まらない。

つまり、いつもと違うのだ。

「……どうしたの、茜?」
「……なんか、変」

酷く不信な顔の茜。

なぜ、そんな顔で私を見るか?

「……何が?」

「なんか」

茜は絶対おかしい、どっか違うと首をひねりまわす。

その間も、私から視線を外さない。

確実に私は観察されていた。

「私はわかるかな」

『……!』

茜と私の視線が、詠美に集中する。

詠美は、その視線にビクッと震えた。