映画はラブシーンに差し掛かった。

渋い三十路を越えた辺りの外国人俳優と、まだ20代の東洋系美人女優がホテルの部屋で抱き合っている。

艶っぽいシーンではあるが、まだ始まって20分ほど。

少し早すぎではないかと思う。

純真無垢な女子高生としては、もっとソフトな方がありがだい。

大和撫子的に。

ま、自称だけど。

それにこの程度で文句をつけるほどねんねじゃない。

……いつもなら。

先に言っておくが、年齢も顔立ちも雰囲気も全く違う。

性別くらいしか共通点がない。

だというのに――。


私は俳優に翔を重ねてしまっていた。

熱い台詞を口にする。英語の言葉が字幕で意味を伝えられた。

それが私には翔の声で再生される。

ホントの声なら耳を塞げば良いが、頭の中から聞こえるものはどうしようもなかった。

頭が沸騰する。

私は少しでも気をまぎらわせようと、スクリーンを凝視した。

熱いキスを場面だった。
俳優の顔がゆっくりと女優に近づいていく。

鼓動が速くなった。


唇が重なった。

お互いがお互いを蹂躙する。

現実では見たこともないほどの熱いキス。

いや、キスと言うよりベーゼ。

キスなんて日常の中に在るものではなかった。

だが、私はそれから目を逸らせない。

いつもなら、ただの映画のワンシーン。

そのはずだ。

だというのに、今日はこんなに見入っている。

私はパニックになっていた。

どうしてただの映画にこんなにのめり込むのだろうか。

「愛してる……」

俳優が囁いた。