「――弱くなるからです」

「弱い?」

翔の言っている意味がよく分からない。

普通に考えれば、夢に向かって走っていく人間が強いのではないか?

私みたいに、あれもこれもと興味を示す方が弱い気がするのだが。

その疑問に、私が聞くより早く、翔は回答してくれた。

「梨花さんは成長期なんです。その時期はどんな経験も血肉にして、力にできる」

真っ直ぐに私の顔を見つめてくる翔。

「感受性が高いから、些細なことに影響されるんです。そうやって1日、いえ、1時間、1分ごとに進歩していく」

翔の澄んだ瞳に吸い込まれる。

私は抗えなかった。

「そいやって変わる度に、人としての厚みができていくんです」

翔は私の肩に手を置いた。

「勿論、失敗することも多いでしょう。辛いことや苦しいこともあるでしょうし、他人の悪意にさらされることもあるかもしれない」

翔の言葉が直接脳に響く。

「でも、それさえ将来的にはプラスになるんです。絶対に」

翔の顔が近づく。

「だから、怖がらないでください。無駄なものなんてないんですから」

「……うん」

無意識的にうなずいていた。

翔はそれを見ると満足げに笑って、私の肩から手を離す。

自然二人の距離は広がった。

「さあ、列車が来ましたよ」

話している間に来ていたらしい。翔に言われて初めて気付いた。

私はベンチから立ち上がる。

翔を向いて、

「ありがとう。その、楽しかった」

もっと他に適した言葉があっただろうが、私には他に思い浮かばなかった。

「僕もです」

そう笑う翔。

列車の扉が開く。

私は飛び乗った。

振り替える。そこには手を振ってくれる翔の姿があった。

初めて翔を見たときと逆の立ち位置。

肩に翔の手の温もりが蘇ってきた。

「あの!」

気付いたら、私は声を上げていた。

駅には発車を告げる警笛が響く。

「また、会える?」

扉が閉まった。

伝わらなかっただろうか?

私は落ち込んだ。

だがガラス越しに伝わらないように顔には出さなかった。