その階段の手すりは、ペンキで塗られていたんだろうけど、経年変化で見事にはがれて、それが外灯で黒光りしていて、この階段をいったい何人の人が何万回昇り降りしたんだろうと思い始めたら、心だけどこか遠い所へ行ってしまって、しばらく身体が置き去りにされた。意識が戻って、私は急いで魚住を追いかけたんだけど、鉄骨の階段を登るたびに、私のハイヒールの音がカンカンと真夜中に響いて、それが何故か私を出迎えるための挨拶みたいに聞こえて嬉しかった。