「ホント、オレらも年取るわけだよな〜」

酔っ払った藤池トオルは、もうこれで今日20回は言ったであろうセリフを繰り返した。
カウンターにガンッと叩きつけるように置いたウィスキーグラスの中の氷が、カランと小気味よい音を立てる。

トオルからの誘いは、久しぶりだった。社会人になれば自分の会社の人間とは飲んでも、学生時代の友達とは自然疎遠となる。
実際、トオルと会うのは一年ぶりくらいだった。

「何だよ。荒れてんだな。…何か嫌なことでもあったのかよ?」

半ば呆れた調子で返しながらも、親友の様子がやはり気になった。
若くしてできちゃった婚をしたトオルは、仲間うちの誰よりもがんばってきたのだが…

「なぁんもないのよっ、これがね。オレの人生なんてさぁ、なぁんにもない」

だんだんあやしくなるろれつを回しながら、トオルはグラスを空けていく。