「あ、すみません、お客様。ナイフを取りに行きますので、少々お待ちください!」
 
勢いよく一礼して、ダニエルは厨房へ向かおうとしたその時。

ヒュン! ザクッ!

分厚い肉に三本のナイフが刺さった。ぶ厚い肉に刺さった振動でナイフが上下に揺れる。
呆然とする客の上から、すっともう一本のナイフを持った手が現れた。
父親が呆気に取られた顔で、天井を見上げる。
何かの返り血を浴びたらしい姿で、天井に張り付いている黒い髪、青い目の青年が口を開いた。

「……お客様、お忘れ物のナイフです……」

「あ、これはご丁寧にどうも……」

血で濡れた手でナイフを渡され、何が起こったのか、理解の範疇を超えてしまった父親は呆然としたままナイフを受け取った。
肉に刺さったナイフと、受け取ったナイフをよく見ると、何かの血で濡れていた。
それを見るなり、やっと気付いた家族連れの客は悲鳴を上げて、店を出て行った。
客を見送りながら、ダニエルは天井にまだ張り付いている青年に声をかけた。

「アルフレッド先輩、またナイフを投げて! お客さん、驚いて逃げちゃったじゃないですかぁー」

そういう問題ではないだろうという、ツッコミはなく、アルフレッドと呼ばれた青年は静かに、ゆっくりと天井を這って厨房へと戻って行った。