女性客が座っているテーブルに近くで立ち止まり、スティーブンは咳払いを一つする。
深呼吸を何度か繰り返し、気合いを入れるように空いた手で握り拳を作った。
女性客のテーブルの前に立ち、スティーブンは声をかけようとした。
瞬間、しゅぽんっという音が聞こえた。
持参した本を読んでいた女性客は、変な音を耳にして驚いたように音の方に目を移した。
見ると、スティーブンの口から何か白いモノが出ていた。

『お客さん、ご注文の物です』

白いモノがスティーブンのミニキャラのような姿になり、女性客にアイスコーヒーとトーストとポタージュスープを置いたトレイを渡した。
しばらくの間、沈黙が店内を支配した。
その沈黙の間、スティーブンの姿をした白いモノは、手を何度も女性客の前で振ってみせた。
我に返った女性客は悲鳴を上げ、荷物を持って風のように店を出た。
女性客の悲鳴を耳にしたダニエルが慌てて店内に入ると、スティーブンの変わり果てた姿を目にした。

「あ、アルフレッド先輩!! 大変ですっ、スティーブン先輩の魂が抜けそうですっ!」

「……そうだね……。……まだ、上がり症が治ってないようだね……」

白い壁に隠れていたらしいアルフレッドが白い布をきれいにたたみながら、スティーブンに近付いた。

「え? スティーブン先輩って、上がり症だったのですか?」

「……そうだよ……」

『うるさい! 悪いかっ! だから、俺に渡すなって言っただろうがっ!』
 
スティーブンの魂が白から赤に変わり、叫んだ。
それから、スティーブンの抜けかけた魂が身体に戻れたのは閉店前だったという。