誰もいない部室で
制服から胴着、袴に
着替える。

竹刀片手に第2体育館へと歩を進ませる。

この姿になると弱虫のボクは消えて無くなり、ひとりの武士に生まれ変われる気がして、身が引き締まる。



いじめられていた中学時代。

ボクは剣道部の部長だった。

そんな時、練習中、道場に不良グループが入って来た。

しかし、ボクは逃げる事なく、不良グループに向い

「練習中だから、出てってくれないか」

と言い切れた事がある。

普段のボクでは言えない言葉。

ボクは道場でふざけられるのが許せなかった。

それだけ、プライドを持って取り組んでいた。

高校に入ると練習の成果も出始め。

ボクは団体戦では大将を任せられるぐらいまで強くなっていた。


授業はさぼっても、剣道だけは絶対にさぼったりしなかった。


努力すれば報われる。剣道はボクにそれを教えてくれたからだ。



しかし、今日のボクは何処か、地に足がついていないような感じだ。


誰もいない体育館の
中央で大の字になり、大きく深呼吸をする。

防具室から漂う剣道独特の悪臭が、もうボクには、慣れていて。
時々、今日みたいな日には、いい臭いにさえ感じる。


授業が終わったのだろう。在校生達のざわめきが遠くで聞こえる。


ボクは精神を集中しようと、正座をし黙想を始めたが、今日に限っては、瞳を閉じても、無の境地には成れない。

彼女の姿が浮かびは消え、浮かびは消えの繰り返し。


ボクにとっては、今日は決戦の日。


後戻りはできない。

恐れてはいけない。

ここまで来たのだ。

決戦の時刻はすでに決めている。