目覚まし時計がジリジリと鳴り響く。

眠い眼を擦りながら、アラームを消した。


時刻は8時を示していた。


完全に遅刻である。

何ヵ月ぶりの遅刻だろうか?

ボクは制服に着替え終えて、珍しく玄関には向かわずに、リビングで朝食でもとろうと、二階から降りてきた。

誰もいないリビング。

父は市役所勤めで朝7時前には、出かける。とても真面目で頼まれた事を断れないタイプ。学校では、PTA会長を務めいた。高倉健を崇拝していたせいか、かなりの硬派だったのたが、ひとたび、酒が入ると堕落者と変貌する。土日と立て続けに飲むと、月曜日は、一度、出勤し、家族が誰もいない時間帯を見計らって、仕事をサボって家に帰って来ていた。そんな日の父の部屋は畳の匂い、酒の臭い、加齢臭が混じりあって悪臭を漂わせていた。


母はパートに7時40分に出かける。童顔で若く見られる母は、幼き頃のボクにとっては、自慢の一つでもあった。しかし、その裏では、母親役をこなしながら、もう、10年間、パート先のスーパーの店長と不倫関係にあった。
小学5年生のある日、突然、母の部屋に呼び出されて「お母さんには好きな人がいるの」 と告げられた。でも、ボク達、兄妹が成人になるまでは、離婚はしないとも言っていた。夜になると、我が家では、必ずと言っていいほど、電話がワンコール鳴って切れる。その合図が鳴ると母は二階の自分の部屋へと急ぎ足で向かう。 小学3年生頃から薄々、気が付いていた事だったが、本人の口から直接聞かされて、正直ショックを受けた。あの時、幼き心でも、母も女なんだと悟った。