彼女の瞳は潤んでいて

今にも泣き出しそうに見えた



僕は

自分が医者であることや

彼女が10歳も年下の

中学生であることも

すべて忘れて

彼女を抱きしめたくなった



このまま時間が止まればいいと

生まれて初めて真剣にそう思った



『美羽・・・』



と そのとき



「患者のみなさままもなく消灯です

就寝の準備をしてください」



いつもきっちり9時50分につげられる

消灯のアナウンスが流れてきた



思わず二人とも小指を離して

気恥ずかしくなって

顔を背けてしまった



『・・・じゃあ また 明日・・・ね』



僕はとにかく恥ずかしくて

美羽の顔を見ずにそう言った



『うん・・・先生 おやすみなさい』



美羽はたぶん

僕のほうを見ながら

そう言ったと思う





今思えば

あの日が僕と美羽にとって

一番幸せな日だったのかもしれない



なぜなら

あの日の僕たちは

無条件に未来がやってくるのを

信じていれたのだから