坂の上で学校の始業を開始するチャイムが鳴り響くのが分かった。


「げっ、完璧に遅刻じゃん」


冬真は慌ててあたしの腕を掴んで、走り出そうとする。でもあたしは足をそこに止めたまま逆に力を込めて引っ張った。冬真が「おお!?」とよろけてバランスを取っている姿を見ても、手は離さなかった。離したくなかった。


冬真が遠くに行ってしまいそうで。寂しくて。『お別れ』になってしまいそうで。……馬鹿だな。卒業式はまだなのに。


「春花?」


何も言わないあたしを心配する冬真に名前を呼ばれても、俯いた顔は上げられなかった。


「どした――」


あたしの顔を覗き込むように見た冬真が、しばらくの沈黙の後「どっか、行く?」と呟いて、あたしは反射的に顔を上げてしまっていた。


「全く、残り少ない貴重な最後の中学生活を…」


ごめん、冬真。あたしにとったら残り少ない中学生活より、冬真と二人で過ごす残り少ない時間の方が貴重かもしんない。