あたしの名前を呼んだ冬真がニシシ、と悪戯を企む子供みたいな顔で歯を見せて笑う。
「学校まで競争しよーぜ!」
「やだよ。寒いもん」
「出た。春花の寒いもん!」
何よそれ。寒いから寒いって言っただけじゃん。それに、なにが楽しくてこの寒空の中走らなくちゃなんないのよ。
「冬になると春花、寒いもん寒いもんしか言わねーよな」
「だって、寒いんだもん」
ああ、そうだ。冬真とは三年間同じクラスの腐れ縁だった。教室で寒い寒いって縮こまってたら、いつも馬鹿にするんだよね。
それも、もうなくなるのかな。来年の冬にはもう、あたしと冬真は同じクラスじゃないんだし。
なんでかな。、なんでこんなに寒いんだろ。もう冬真はあたしを追い抜いて数歩先を歩いているのに、あたしの足はまるで凍結してしまったみたいに動かない。
「はるかー?」
冬真のあたしの名前を呼ぶ声に、胸が締め付けられる。苦しくて、胸が痛くて、上手く息ができなくなる。窒息してしまう。
そうか。もう冬真があたしの名前を呼ぶのがあと少しだと思うと、寂しいんだ。

