もうすぐ三月だというのに、相変わらず寒い。特に朝はぐっと冷え込んで、寒がりのあたしはマフラーとポケットのなかのホッカイロが手放せない。


通い慣れたこの通学路も、あと少しなんだと思うと変な感じ。学校までのこの坂も、いつも文句を言いながら上ってた。


いつか、懐かしいなんて思う日がくるのかな。そうやって、あたしも大人になっちゃうのかな。


…なんか、やだな。この坂を上りきったらもう学校なのに。でもあたしはそれ以上進む気にはなれなくて、足を止めた。


「春花っ。なに突っ立ってんの?」

「あ、冬真」


後ろから少し顔を少し赤らめて走ってきた冬真が、あたしの肩をポンと叩いた。

「何やってんの?遅刻すんじゃん」

「なんかこの坂をひいひい言いながら上るのもあと少しなんだなぁって思って」

「…お前ってそんな浸るような繊細な奴だっけ?」

「何か言った?」


じとりと睨むあたしを冬真は「いーや」と白い息を吐いて笑った。


「はーるか!」


そうやって、あたしの名前を呼ぶ冬真の声も、もう聞けなくなっちゃうのかな。
冬真とこうやって学校に行く途中に偶然会うことも、ないのかな。