CHERRY BLOSSOM



ポロポロと流れ落ちる涙を拭うことも忘れて、冬真と二人で見た海を、今度はひとりで眺める。

遊歩道の向こうに見える桜並木も、まだ花をつけてはいない。やっぱりまだ咲かないじゃん。


『桜が咲いたらさ……』


そういえば、冬真のあの言葉の続きはなんだったんだろう。……いいや。どうせくだらないことに決まってる。


「…さぶ」


体を突き刺さすようにふく風に、思わず身を縮こまらせる。あー、寒いなー。マフラー落としちゃったし。

「…さむいよ」



「っそりゃ、マフラー…落とすからだろっ…」

「と、とうま?」


ありえない人物の声に、振り向いたまま思わず呆然と立ち尽くす。


「…っ、おまえっ!うえっゲホゲホッ」

「と、冬真!?」


乱れた息を調えもせずに喋り出そうして、むせる冬真にハッと我に返る。


思わず背中をさすれば、冬真は膝に手を乗せたまま深呼吸をする。


「…はー」


ようやく落ちついたらしい冬真が、いきなり顔を上げてあたしを睨む。


「バカ春花っ。なんで先帰んの?」