踵を返して、おもいっきり全速力で走り出す。菜摘が引き止めようとしたのか、手を伸ばすけど間に合わなかったみたいだ。ちくしょー。足速いじゃないか、あたし。陸上部にでも入ってやればよかった。
論点のずれたことを考えながら、ただがむしゃらに走った。余計なことばかり考える頭をからっぽにしたくて。
「はぁ、はぁ…っ」
遊歩道まで走ったところで、妙な首の解放感に立ち止まる。首に直接あたる風が冷たくて。
「あ、れ…?あたしマフラー…」
無茶苦茶に走り過ぎて気付かなかった。どうやら落としたみたいだ。
「っさいあく、寒いじゃん…!」
違うよ、走ったせいで体温は上昇してる。顔だって熱い。
寒いのは。寒いのはあたしの心だ。
冬真が隣にいなきゃ、スースーする。寒いんだよ。
じわじわと押し寄せる涙で、視界が滲んでいく。

