「おーい!春花、はるかっ」
受け取った花すらこぼしそうなほどに力の入らない腕を掴んだのは菜摘だった。
「冬真っち、隣のクラスの女子に連れて行かれたって!」
隣のクラスの、女の子。
「ほら、あの陸上部の…」
それはきっとさっきの子だ。確信する。菜摘は、あたしを心配して駆け付けてくれたんだろう。腕に抱えてる花束から、花びらがはらはらと落ちていくのが見えた。
だけど、そんな菜摘に何も言えないくらいあたしの心はえぐられていた。
『……卒業式に告白とかされたいなー』
冬真の言葉が蘇る。
そっか。あたしはここで冬真とお別れだけど、あの子は違う。同じ高校に行ける。同じ道を歩いていける。これからも冬真の隣にいられるんだ。
よかったじゃん。告白されて。夢が叶って。
あたしが今さら冬真に言うことなんて、伝えることなんて、なにもないんだ。
「……そか、帰る」
「えっ、は、かえる?春花?だって冬真っちは?」
「しらない」

