* * *




「ごめん!」


突然パッと離れた手に、寂しい反面、安堵した。

なごりおしい、とも思う。



「あ、ううん、平気」



同い年だとわかって、あたしは彼に敬語を使うことを止めた。
それには、少し近づきたいと願ったのもあったけれど、咄嗟に出たのがため口だったから。








シトシトと雨音だけが響く。


ついたのは、玄関から少し離れた一階の一番角の踊り場。

サッカー部の部室までの通り道になっているこの場所は、普段から人気が少ない方で、ここを通るのはいつもサッカー部員しかいないくらいなんだけれど。

雨で部活が潰れて、それもなくなり余計人気がなくなった。

というか、誰も通らないんじゃないかと思う。






「傘、ごめん。今日うちに忘れてきちゃって」


彼が言葉を終える前に、次会ったら必ず伝えたいと思って考えていた台詞がパッと口をついて出てしまった。



「いや、あれビニールなんで、大丈夫です。あげます。

…っあ、もし、いらなかったら捨てて下さいね!」



ってこれじゃあまるで、「捨てといて下さい」って言っているみたいだ。


(どうしよう……!)