浅木と頭巾の忍者は二、三度剣をぶつけた。

離れてから、二人はすれ違いざま斬り合った。

頭巾の忍者の剣が浅木の肩をかすった。浅木の剣先がずきんの口元を破った。

その隙間から顔がだいぶ見えてきた。

「お兄ちゃん」

と、小春が言った。

「お前の兄なのか」

と、浅木が聞いた。

小春は小さく頷いた。

頭巾の忍者は口元に不敵な笑みを浮かべた。

「もうこんなものは必要ないな」

そういうと頭巾を氷雨は自分で脱ぎ捨てた。

顔の一部にやけどの痕があった。

小春が聞いた。

「お兄ちゃんどうしてこんなことしているの」

「この傷をみろ」

そういうと、氷雨は上着を脱いだ。

体には無数の傷があった。

「俺は幕末に旧幕臣として京都に行った。そには活躍の場があった。多くの志士たちを暗殺した。そして、鳥羽伏見の戦いに参加した。これはそのときに受けた傷だ」

服を再び着ながら氷雨は続けた。

「しかし、幕府軍は破れ、将軍は戦うことなく江戸に逃げていった。俺はそんな幕府を見限り新政府側について今度は幕府の人間を始末した。だが、直ぐに俺たちの居場所は無くなってしまった。そんなとき、西南候だけが我々に希望を与えてくれた」

「アヘンを広めてどうする気だ」

と、浅木は聞いた。

「新政府を倒して、もう一度やり直すためには多少の犠牲は仕方あるまい」

と、氷雨が答えた。

「間違っている」

浅木はそう言いながら氷雨に打ちかかった。