良庵はちょうど往診で居なかった。


浅木は奥の部屋で患者を診察したが、小春のことを考えると身が入らなかった。


急に表が騒がしくなった。


「お待ち下さい」
看護師の声がした。

「アヘン患者は収容所に収監することになっている。じゃま立てすれば、お前も同罪にする」


ドタドタと廊下を靴で歩く音がした。


廊下に浅木が出るとそこには警官がいた。


「た、隊長……」


浅木が最後まで言わないうちに


「なんだ、山崎か。久ひさしぶりだな。おまえこんなところで何をしている」


細い目で睨みつけながら、低い声で尋ねた。


斎藤一、新選組隊長、昔と少しも変わらず落ち着いていた。

「今は浅木と言います。それに、見ての通りの医者ですよ」

浅木は両手を広げて医者の制服姿を見せた。


「ほう。この前までの人殺しが今は人助けをするのか。世の中おしまいだな。もっとも、おまえの腕で救える命などあるのか」


「そちらこそ。新選組の三番隊長が今は警視庁の巡査とはお互い様じゃないですか」


「違う。俺の中で真理は変わらない。悪は斬るだけだ。それから、これから俺のことは藤田と呼んでくれないかな。浅木君」


二人は少しにらみあった。