「そう、ですか」

結局、優希に直接その言葉を伝えることはできなかった。

後悔の念がこみあげてくる。

「すいません。全部、俺が悪いんです。俺が、温泉旅行なんて計画しなければ、あいつは……」

「馬鹿なこと言うんじゃないよ。あの子は幸せだった。私には、それだけが救いなんだよ。でも、晴れ姿を見てやれなかったのが、唯一の心残りだね……」

遠い目をしてそう言った、おばさんの目には、薄く涙が浮かんでいた。

そう簡単に乗り越えられるわけないよな。

俺ですらこんなに辛いのに、娘を失った衝撃は計り知れないだろう。

不意に、肩を叩かれる。

「私は、あんたのことも息子だと思ってる。だから、好きなときに、好きなようにして家に来たらいいんだよ?」

本当に、ここの人達は、どうしてこんなに優しいんだろうか。


自分だって、すごく辛いはずなのに。どうして、こんなに、他人に優しくできるんだ。

「……ありがとうございます。俺、なんか申し訳なくて。葬式もすっぽかして、…優希の死に顔も見れなかったから」

「気にしなくていいよ。あんたも、辛かったんだろ? 泣いて、泣いて、泣ききりました、って顔に書いてある。だから、もういいんだよ」

ああ、温かいな。

優希や早紀ちゃんの優しさの原点は、間違いなくこの人だろう。

「すんません、……ありがとうございます」

「だから、いいって言ってるじゃないか。まぁ、立ち話もなんだし、とりあえず家に上がろうじゃないか。せっかくのお土産も腐っちまうよ、ほら」

「は、はい」

半ば、強引に背を押されながら、俺は斎藤家の敷居をまたぐのだった。