翌日、俺は斉藤家の前に来ていた。

手には、ケーキと、優希が好きだった秋桜を一輪、持って。

しかし、いざ来てみたはいいが、なかなか呼び鈴を押すことができない。

葬式にも出席せず、家に引きこもって、自暴自棄になっていた俺は、どんな顔をしておばさん達に会えばいいのかわからなかった。

と、10分ほど玄関の前を行ったり来たりしていると、おもむろにドアが開いた。


ものすごい速さで。

「あんたは、どこぞの不審者か!?」

ぱぁーんと、辺りに小気味よい音が響きわたる。

どうやら、いきなりスリッパで頭をはたかれたようだ。

ちょっと痛い。

「お、おばさん」

見ると、おはさんが、腰に手を当て、仁王立ちしていた。

顔を見る限り、相当怒っているようだ。

「おばさん、じゃないよ! 玄関の前を行ったり来たり、何やってんだい! もっと、普通に入ってこれないのかい、普通に!」

「い、いや、これには深い事情が」

「事情も、ヘッタクレもない! ここは、あんたの家でもあるんだ。それとも、何かい? あんたは、自分んちに入るのにも事情がいるのかい?」

「いや、だから」

言いかけて、止まる。

自分んち?

はっ、として見ると、おばさんは、とても優しい目で俺を見ていた。

「早紀に聞いたんだよ。あんた、優希にプロポーズするつもりだったんだってね。早紀が、自分のことみたいに喜んでたよ」