ザザンと海が鳴る。



潮風が髪をなびかせて
あたしは自分の手で押さえながら
防波堤に腰を降ろした。





あのまま
病院をあとにしたあたしは


何故か誘われるようにこの海まで来てしまった。




ここに来れば
そうくんの声を思い出せるから。


『海音。』

『好きだ―――…』

『愛してる。』






波に共鳴する
優しい声。





「……そうくん…。」


そう呼び掛ければ
この波は優しく答えてくれる。


だけどやっぱりここに
そうくんの声は聞こえなくて。






あたしが聞きたいのは

「……もうやだぁ…。」


頭の中で響く声じゃなくて
直接響くこの波みたいな優しい声。





「そうくん―――…」



溢れ出す涙に
地平線から太陽が顔を覗かせた。