あたしは隠れながら
看護婦さんの目を盗んでタクシーを捕まえた。



「すいません、××町まで。」


そう告げて
あたしはダルい体を後部座席に預ける。





未だに反芻するあの優しい声。


自分が何故、こんな事してるのかわからない。




だけど確かめたかった。





あの真っ直ぐな瞳に
誰を映してるのか



どうしても確かめたかったんだ。






「ありがとうございました…。」


バタンと閉まる扉に
おぼつかない足取りで歩き出した。




電気付いてる…。


夜にこぼれる部屋の明かりに
あたしはほてった指先でインターホンを鳴らす。




ダメだ、体が熱い…。


すとんと落ちるように座り込んだあたしの視界に
扉から漏れた光。




「……海音…。」


霞む視線の先に
戸惑う香苗が映った。