「…いいよ。」
何が…?
何がいいんだよ…?
普段とは違う葵の冷たい声色に、心拍数が上がっていく。
引いてはいけない引き金を引いてしまったかのように、一気に血の気が失せていった。
「え…?」
「無理しなくていいから。」
「葵…」
俺の言葉を遮って、葵はこう言った。
「別に……逢いたくない。」
“逢いたくない”
真剣なその声で冗談じゃないことは明らか。
だとしたら…
葵は本当に俺に逢いたくないのか…?
すぐ近くにまで見えていた家に、背を向けようとした
その時だった。
「え…」
思わず声が漏れる。
数ヶ月前まで葵と俺が二人で暮らしていた家の扉の前
黒い人影が見えた。
あれは…
愁……?
なんで愁が…
少しして、今にも泣きそうな葵が家から飛び出してきた。
家までの距離、数十メートル。
会話は聞こえないけれど、何をしているのかはわかる。
俺が出ていく雰囲気じゃないことも…
葵が愁に抱きしめられていることも……

